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高齢ドライバー向け施策に心理的副作用?

高齢ドライバー向け認知機能検査による心理的影響とその副作用の緩和策

パートナー:なし

研究者:根本美里(指導教官:谷口綾子)

研究の概要

背景と課題

高齢化が進む近年、高齢ドライバーの交通安全に向けた対策が課題となっている。

2009年の道路交通法改正により、「認知機能検査」が導入された。「認知機能検査」は、 75歳以上の運転免許保有者が運転免許更新時等に受検が義務付けられている。

検査は、検査時における年月日、曜日及び時間を回答する①時間の見当識、一定のイラストを記憶し、採点には関係しない課題を行った後、記憶しているイラストをヒントなしに回答し、さらにヒントをもとに回答する②手がかり再生、時計の文字盤を描き、さらにその文字盤に指定された時刻を表す針を描く③時計描画から構成されている。

受検者は、検査の結果に応じて、「第1分類:記憶力・判断力が低くなっている(認知症のおそれがある)」、「第2分類:記憶力・判断力が少し低くなっている(認知機能の低下のおそれがある)」、「第3分類:記憶力・判断力に心配がない(認知機能の低下のおそれがない)」の3分類に分けられる。

認知機能検査で第3分類と判定された人は、「認知機能に今のところ心配がない」という直接的な一次メッセージを受け取る一方で、「認知機能だけでなく運転技術も高い」との誤ったメタ・メッセージ(副作用)を受け取る可能性も考えられる。

本研究では、認知機能検査が受検者にもたらす心理的影響の効果・副作用の存在を検証することを目的とする。

データ分析

本研究で実施する、認知機能検査によるメッセージ効果検証実験は、関東地方に住む認知機能検査の受検経験の無い、70~73歳の運転免許保有者59名を対象とした。

調査の流れは、まず初めに、事前アンケート調査を実施し、その後、模擬認知機能検査を行った。模擬認知機能検査は、警察庁のホームページに掲載されている認知機能検査の検査用紙、進行要領、採点方法を用いた。
検査終了後、模擬認知機能検査の結果通知書を、実際に使用されている結果通知書と同様の様式で渡し、その結果を踏まえて事後アンケート調査を実施した。
調査全体の所要時間は、約1時間程度であった。

事前・事後アンケート調査項目は、運転の自信や自己評価、クルマ利用・運転免許返納行動意図等で、これらの結果を、検査結果別に事前事後比較することで心理的影響を検証する。具体的には、統計ソフトSPSSを用いて、対応のある平均値の差のT検定を実施した。

効果・実証

認知機能検査結果別の運転の自信の事前事後比較では、記憶力・判断力に心配がない(第3分類)と判定された人は、運転の自信で事後の値が高くなった(有意傾向)。

認知機能検査結果別のクルマ利用・運転免許返納への意識事前事後比較では、記憶力・判断力に心配がない(第3分類)と判定された人は、「クルマの利用は控えよう」、「気をつけて運転しよう」、「すぐに免許返納しよう」、「いつかは免許返納しよう」と少しでも思うか、の全ての項目で事後に有意に値が低くなった。このことから、検査結果が交通安全意識の低下をもたらす可能性が示された。

記憶力・判断力が少し低くなっている(第2分類)と判定された人は、「いつかは免許返納しよう」と少しでも思うかの項目で事後に有意に値が高くなった、そのため、検査結果が運転免許返納への意識に正の影響をもたらしたことが示された。

成果と提案

以上より、認知機能検査結果の提示によるクルマ利用抑制や運転免許返納への意識が高まるという、一次メッセージの効果が示された。
また、クルマ利用抑制や運転免許返納への意識が低下したり、自身の運転を高く評価するようになったりすることが示され、認知機能検査結果の提示によるメタ・メッセージ効果が示された。

この記事は、下記の論文を要約したものです。

根本美里(2021)高齢ドライバー向け認知機能検査による心理的影響とその副作用の緩和策,2020年度筑波大学大学院博士課程システム情報工学研究科修士論文.

後記

  • 修士の2年間を通して、学会等で発表する機会が多くあり、その際に様々な方から貴重なご意見を頂くことができ、とても刺激になりました。
  • 研究の対象者である高齢者はアンケートを回答する負担が大きいため、調査の際に質問文の読み上げや補助員の設置など、円滑に進めるための工夫を行いました。
  • COVID-19の影響により、高齢者対象の対面調査ができなくなったことで、当初の計画通りに進まなかった点は少し悔いが残りますが、卒論から同じテーマで続けてこられたことはとてもやりがいがありました。