ケースバンク

助成制度で地方都市の市民活動を育てる

地方都市における市民活動の育成を目的とした市民提案型まちづくり活動助成制度の役割と課題

  • 効果検証・エビデンスの蓄積
  • 都市計画・建築・不動産

パートナー:なし

研究者:板橋 奈央(指導教員:藤井 さやか)

研究の概要

背景と課題

●近年、急速な人口減少・少子高齢化に伴う行政の財政悪化に加え、市民ニーズの多様化・複雑化により、市民を公共サービスの担い手とする「新しい公共」(1)の取り組みが活発化している。

●こうした取り組みの中の一つに、市民発意の事業に対して金銭的支援を行う「市民提案型まちづくり活動助成制度」(以下、提案型助成制度)がある。最近では地方圏でも整備が進められており、地方活性化の打開策となることが期待されている。

●また、提案型助成制度には、団体の初期活動支援、育成支援の効果があると既往研究(2)(3)より明らかにされている。しかし、地方都市の制度を分析した研究(4)では、育成支援機能が弱い制度の存在が示唆されており、地方都市においても育成を目的とした制度の成立が求められると考える。

 

●提案型助成制度に関する既往研究は、東京圏の都市における制度を取り扱った論文が多く、地方圏の都市における提案型助成制度を対象とした研究の蓄積は少ない。

●また、既往研究の中で示されている提案型助成制度の成果は、助成による効果を明らかにしたものであり、既存の行政サービスとの関係を通して実現した事業自体の効果・位置付けにまで注目した研究例はない。

 

●そこで、本研究では、地方都市の提案型助成制度の中から団体や事業を育成することを目的とした制度を選定し、①提案型助成制度による市民活動育成の実態、②現行政サービスにおける提案事業の位置付けを調査することで、提案型助成制度の役割を示すとともに、今後の運用方針を検討する。

 

●対象事例は、既往研究(4)で取り扱った地方都市の制度のうち、①初期活動支援を目的としたコースを持っていること、②運用年数が5年以上、③応募件数が平均以上(14.2件以上)、④既往研究での課題に対応する取り組みがあること、という条件のもと、「奥州市市民提案型協働支援事業補助金」「栃木市市民活動推進補助事業”とちぎ夢ファーレ”」「沼津市民間支援まちづくりファンド」の計3事例を選定した。

 

●本研究では、提案型助成制度による市民活動の育成を「①事業内容の育成」「②提案団体の育成」に分けて考えていくこととする。

表1:市民活動育成の定義

 

分析

【調査①:制度担当課調査】

●制度概要ならびに運用実態の把握と育成機能の実態把握するため、制度担当課(提案型助成制度を運営している課)にアンケート調査ならびにヒアリング調査を実施した。

●制度の流れを5つの段階(事前相談・申請・審査・事業実施・報告)に分割し、段階ごとに運用実態と育成機能を調査した。

●育成機能に着目すると、アドバイスや議論など対話が生まれる場面が共通して関わっていることが分かる。

●以上より、事業内容・提案団体の育成には提案団体との対話が重要であると言える。

表2:制度担当課から見た育成機能

 

【調査②:実績資料調査】

●実施事業の傾向と継続利用の動向を把握するため、過去の実績資料を分析した。

●事業テーマの傾向を見ると、「学術・文化・芸術・スポーツ」「コミュニティ・地域活性化」をテーマとする事業が多くなっている。また、全体を俯瞰すると、制度担当課の業務領域と異なる事業が多いことも分かる。

 

図1:3制度の事業テーマの傾向

 

●実施内容の傾向を見ると、3制度共通して「イベント開催」を含む事業が多いことが分かる。

図2:3制度の実施内容の傾向

 

【調査③:提案団体調査】【調査④:事業関係部署調査】

●先の調査を踏まえ、各制度2団体ずつ選定し、提案団体と事業関係部署(提案事業のテーマに関連する課)にアンケート調査ならびにヒアリング調査を実施した。

●提案団体には、提案団体から見た制度の効果・課題を調査し、事業関係部署には既存業務から似た事業の位置付けと効果を調査した。

●提案団体から見た育成機能に着目すると、制度担当課からの視点と同様に、対話が重要であるということに加え、書類の作成が市民活動育成に大きく貢献していることが分かる。

 

表3:提案団体から見た育成機能

●また、制度の利用を通して、主体間の関係構築にも変化があったことが分かった。市の採択事業という後ろ盾と広報の幅の広がりは、地域住民からの信頼を高め、団体・事業を理解する機会の創出は、行政からの信頼度向上に繋がっている。

●提案事業と既存の行政サービスの関係に着目すると、提案事業は新たな視点と手法により既存業務を充足すると同時に、行政側に新たな課題・ニーズを認知させる効果があることが分かった。

 

図3:提案事業と既存業務の関係の例

 

●課題は大きく2つに分けられる。

「制度の規定・仕組みに関する課題」:制度の仕組み(会議の回数、書類の数など)に対して助成額が低いことなどが挙げられた。

「行政との関係に関する課題」:制度担当課以外の課(事業関係部署等)とつながる仕組みがないことや、先述の仕組みがあっても「協働」や「役割分担」の認識の違いにより関係構築がうまくいかないことなどが挙げられた。

成果と提案

●提案型助成制度は、「各段階を通して事業内容・提案団体を育成する機能」により、市民活動を推進する役割を担っていることが分かった。

図4:提案型助成制度による市民活動育成の実態

●提案型助成制度は、「行政と市民活動団体の関係を構築する機能」「提案事業を通して公共サービスを充足し、形成する機能」により、新しい公共を推進する役割を担っていることが分かった。

図5:提案事業と既存の行政サービスの関係

●今後の運用方針は大きく2つ挙げられ、「育成に必要な要素を認識し拡充していくこと」「提案団体と事業分野の課がつながる仕組みを導入し、市民活動団体と行政が伴走してニーズや課題に対応する体制を整えること」である。

 

図6:「事業分野の課とつながる仕組みの導入」により予測される効果

レファレンス

(1)内閣府(2010)「新しい公共支援事業の説明資料」

(2)荒俣桂子、西村幸夫、北沢猛(2002),「市民まちづくり活動における初期支援制度の役割に関する研究―「世田谷まちづくりファンド」を事例としてー」,第37回日本都市計画学会学術研究論文集, pp.445-450.

(3)後藤純、小泉秀樹、大方潤一郎(2011),「市民社会組織の育成支援を目的としたまちづくり活動助成制度の成果と課題-練馬区まちづくり活動助成事業を事例として-」,日本都市計画学会都市計画論文集Vol.46 No.3, pp.997-1002.

(4)板橋奈央、藤井さやか(2019),「地方都市における市民提案型まちづくり活動助成制度の実態と課題」, 日本都市計画学会都市計画論文集Vol.54No.3, pp.1305-1312.

(5)奥州市HP  https://www.city.oshu.iwate.jp/  [最終閲覧2021.1.12]

(6)栃木市HP  https://www.city.tochigi.lg.jp/ [最終閲覧2021.1.12]

(7)沼津市HP  https://www.city.numazu.shizuoka.jp/ [最終閲覧2021.1.12]

後記

●本研究は、卒業研究で行なった全国調査(4)の続編にあたる、事例研究になります。全国調査では掴みきれなかった制度のメカニズム、成果や意義を明らかにすることができました。

●コロナ禍で現地に行くことが難しく、計15主体(制度担当課:3課、提案団体:6団体、事業関係部署:6課)への調査は、1主体を除き、全て電話・オンラインで実施しました。現場の空気感など調査できない部分もありましたが、ヒアリングのガイドとなる紙面調査をヒアリング前に実施するなど工夫を凝らしたことで、密度の濃い調査ができたと思います。大変な時期にも関わらず、丁寧に対応してくださった制度担当課、提案団体、事業関係部署の皆様には、この場を借りて心より感謝申し上げます。