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保育士の業務負担軽減に向けた 顔認証自動ドアの効果に関する実証研究

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パートナー:筑波大学ゆりのき保育所

研究者:笠井 菜央(指導教員:佐野 幸恵・大西 正輝(産業技術総合研究所)・安東 弘泰)

研究の概要

課題と背景

●25~44歳の女性の就業率は上昇しており、それに伴い待機児童問題は大都市を中心に社会問題となっている
●保育士の離職率は約1割であり(厚生労働省,2015)、その理由は人間関係、雇用条件、業務負荷が上位に挙げられる(株式会社ポピンズ,2011)
●対象保育所でのヒアリングからは、「現在、インターホンがなったら顔を目視で確認し手動で扉を開けているが、それを指紋認証や顔認証等で機械が自動で判断し自動で扉を開けてほしい」という意見が得られた
●日本国内で保育士や保育所を利用する保護者の「負担」に着目した研究は少なく、なかでも保育士の業務負担について量的・質的両面から評価した研究はない

データ

玄関のインターホンに顔認証自動ドアを導入することで,送迎時の保育士の活動強度,移動距離及び滞留時間や保護者の滞留時間が減り,体感的な負担が軽減されるかを検証した

実験の仕様

対象施設 筑波大学ゆりのき保育所
使用機器 LIQUID KEY 顔認証入退室管理システム、Xtion(距離カメラ)、Active style Pro HJA-750C(活動量計)
実験期間 2018年10月~12月
実験方法 距離カメラによる動線計測、保育士活動強度計測、アンケート
実験対象

活動量計:保育士正職員13名
顔認証自動ドアへの顔登録:保育士27名及び保護者87名
アンケート:保育所関係者17名及び保護者45名

分析

●移動距離と滞留時間に対するマン・ホイットニーのU検定:
距離カメラのデータ(図1:動線を図示した例)を用いて、「玄関前」の滞留時間と「室内」の移動距離、滞留時間に対し、顔認証自動ドア設置前後で、ノンパラメトリック検定の一つであるマン・ホイットニーのU検定を実施した(表1)
※顔認証システムを従来のインターホンの下に設置したことより、「玄関前」の移動距離が顔認証自動ドアの設置によって変化しないことは自明なため、検定対象からは除いた

・玄関前では、「迎え」時にドア設置前よりも設置後で滞留時間が減少
・室内では、「送り」時にドア設置前よりも設置後で移動距離が減少していたが、「迎え」時の滞留時間は、むしろ増加した

図1 12月19日に記録された分析対象の動線(玄関前・迎え)
動線が重なる部分を色分けして表現している。

 

表1 顔認識自動ドア設置前後の動線に対する分析結果

●活動強度に対するマン・ホイットニーのU検定
活動量計のデータを用いて、活動強度に対して顔認証自動ドア設置前後でマン・ホイットニーのU検定を実施した(表2:A~Mは保育士を表す)
・「送り」もしくは「迎え」いずれかの活動量がドア設置前後で減少していた者は、保育士13名中6名であった

表2 顔認識自動ドア設置前後の活動強度に対する分析結果

●アンケート
・保育士から顔認証自動ドアを望む理由として最も期待されていた「負担感(手間が減りそうなど)」が、設置後アンケートで16名全員より評価された
・保護者についても、顔認証自動ドアを最も評価した点は「負担感(手間が減ったなど)」であった
・顔認証自動ドアの今後の継続的な利用について「賛成する」もしくは「どちらかといえば賛成する」と答えた割合が、保育士は100%、保護者は98%であった

成果

●滞留時間については、「玄関前」の「迎え」が短くなった
→顔認証自動ドアの導入により、保育士の開錠を待たずに入れるようになったことによるものと考えられる

●滞留時間について、「室内」の「迎え」はむしろ長くなった
→認証された顔をタブレットで再確認したことや、未登録保護者来所時の対応のためと考えられる

●移動距離については、「室内」の「送り」が短くなった
→インターホンが鳴るたびに室内のインターホン前に確認しに行く移動がなくなったためと考えられる

●活動強度については、保育士により大きくなった者と小さくなった者がいた
→担当年齢による違いは見られず、顔認証自動ドアの効果を明瞭にするためにさらなる計測が必要

●アンケート結果より、負担感は保育士と保護者の双方で減ったと考えられる

●送迎担当者全員の顔登録、イベントのない平常時での実験、十分な慣らし期間を経ての計測などが今後の課題である

レファレンス

   株式会社ポピンズ(2012)「潜在保育士ガイドブック」<https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000123468.html>.(最終閲覧日2018/02/02)

   厚生労働省「社会福祉施設等調査」<https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/23-22.html>.(最終閲覧日2018/02/02)

厚生労働省(2018)「保育所等関連状況取りまとめ(平成30 年4月1日)」<https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/000350592.pdf>.(最終閲覧日2018/02/02)

厚生労働省(2015)「保育士等に関する関係資料」<https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11901000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka/s.1_3.pdf>.(最終閲覧日2018/02/02)

   首相官邸ホームページ(2019)「待機児童対策~これからも、安心して子育てできる環境作りに取り組みます!~」<https://www.kantei.go.jp/jp/headline/taikijido/index.html>.(最終閲覧日2018/12/01)

総務省「労働力調査 長期時系列データ」<http://www.stat.go.jp/data/roudou/longtime/03roudou.html>.(最終閲覧日2018/02/02)

 

この記事は,下記の論文を要約したものです

笠井奈央 (2019) 保育士の業務負担軽減に向けた顔認証自動ドアの効果に関する実証研究, 2018年度筑波大学大学院博士課程システム情報工学研究科修士論文.

後記

 ●保護者の方の顔認証登録作業に特に苦労しました。保育所の送迎時は、多忙な保護者の方も多く、また時間もまちまちなので、お願いするタイミングが難しいということがありました。また、お子さんの体調により送迎時間が大幅に変わり、予定していた登録作業が流れることも多々ありました。

 ●多忙な保育士の方々に、システム導入によってこれ以上、作業が増えるという誤解を生じさせないために、丁寧な説明をしました。また導入後も、少しでも疑問、トラブルがあると昼休みに駆けつけて対応をし、現場からの信頼を得られるように努めました。

 ●このようなことがありながらも、保育士・保護者の方々のご協力のもと、無事研究を行うことができました。保育士の方々の苦労だけでなく、子供に関する研究を行う際に留意すべきことも、本研究を通じ、より理解できるようになりました。