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減災・オフグリッドの視点での無電柱化の効果-県南電柱位置データを用いて-

  • インフラ
  • 持続可能性の追求
  • 計画の見直し

パートナー:なし

研究者:渡司 悠人(指導教員:大澤 義明)

研究の概要

背景と課題

●災害大国である日本では、災害に伴い電柱が倒壊してきた過去があり、1995 年兵庫県南部地震では約 4,500 本の電柱が倒壊してその一部の電柱が緊急車両の通行を妨げた(国土交通省,1995)。また、近年では台風被害に伴う電柱倒壊が目立つ。

●台風が原因となり2015 年5 月から 9 月までの期間において、 1 日あたり約3本の電柱が倒壊したと言われている(電線のない街づくりネットワーク,2018)

●2019 年 9 月の台風 15 号では、電柱 84 本が倒壊したと報告されている(東京電力,2019)

●電柱は年間 7 万本のペースで増加傾向にあり(国土交通省,2016)、その1年間の維持管理費は約 1km あたり約 114 万円である
●しかし、国内人口は 2008 年をピークに、少なくとも 2065 年までは減少すると予想されている(社会保障・人口問題研究所,2017)

●さらに、山間地域や田畑が広がる農村地域などでは、少数の建物のために多数の電柱と電線が引かれている(図1)

図1:筑波山周辺の集落(2019.5 筑波山神社付近)

 

●電柱の空間的な分布には地域差が存在する(図2-1から図2-4)

図2-1:つくば駅周辺

図2-2:土浦駅周辺

図2-3:守谷駅周辺

図2-4:石岡市柿岡周辺

●現在はユニバーサルサービスの手段として電柱・電線を利用しているが、需要あたりの維持管理負担を考えると、このような地域では、従来の配電方法とは異なる手段が必要である

●電線地中化(電柱を無くす)や、オフグリッド(電柱・電線の両方を無くす)による無電柱化を検討してゆく必要がある

​​●無電柱化の効果や災害時の経路について土木工学や建築工学、都市計画、オペレーションズ・リサーチなどの分野では、景観への影響の検討(石田, 2011)や、歩行者の導線に与える影響の検討(厲, 1998)、地価への影響の検討(朴, 2017)などがなされてきたものの、実際の電柱の位置情報を用いた詳細な検討は行われていない​

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本研究では、無電柱化がなされるべき電柱はどのようなものかを検討すべく、実際の電柱位置情報データを用いて、災害時の無電柱化の効果検証や、過疎地へのオフグリッドの導入の効果検証を行った

分析

主な分析データ

電柱の位置情報については、茨城県下の20市区町村における2018年10月~2019年6月までの最新のデータ(東電タウンプランニング株式会社)を用いた

電柱本数に関連する要因の分析

●500 mメッシュあたりの電柱本数を従属変数とした回帰分析により、人口、道路延長、市街化区域ダミーが、それぞれ電柱本数と正の関連をもつことがわかった

●特に、市街化区域に電柱は密集しており、市全体の10%程度の面積を占める市街化区域に、全電柱の30%が分布していた

市役所間のパレート最適経路分析 1

●災害時、自治体間で救援物資や緊急車両などを提供しあうことを想定し、役場と役場を結ぶ経路における速達性(移動距離の小ささ)、安全性(電柱倒壊による道路閉塞可能性の低さ)のトレードオフを考えた際のパレート最適な(ここでは、速達性と安全性の一方を改善する場合に、他方を改悪せざるを得ないような状態)経路を求めた

●実際の電柱の位置情報をもとに算出した「土浦市役所とかすみがうら市役所間のパレート最適経路」として、市役所間の最短経路、電柱が最も少ない経路である電柱最小経路、国道6号を主に通過する経路r1、電柱が密集する土浦駅周辺の市街地を迂回せずに通過するr2が検出された(図3)

図3:役場間のパレート最適経路

 

市役所間のパレート最適経路分析 2

●市役所間を結ぶ道路のうち、災害時の緊急輸送道路として指定されたもののみを抽出し、その電柱本数をすべて0と仮定して再計算すると、最短経路に近い経路r1が電柱最少経路となった

●すなわち、緊急輸送道路の無電柱化により、速達性と安全性を一定程度両立できる可能性がある(図4)


図4:緊急輸送道路と無電柱化後の最適経路

 

同心円モデルでのパレート最適経路分析

●現実を単純化したモデルとして、放射環状道路を模した同心円モデルでより一般的な状況を考えた(図5)

図5:同心円モデルの変数の設定

●市街化区域の電柱密度を1、市街化調整区域の電柱密度はそれより低いρ(たとえば、0 <ρ< 1)とすると、円の中心を通って発地(O)と着地(D)を結ぶ線のなす角度差θの大きさ(θ< 2[rad]、もしくはθ> 2[rad])と、移動パターン(外側→外側、外側→内側、内側→内側)の組み合わせにより、計6通りの組み合わせが考えられた

●これらの組み合わせごとに最短経路や電柱最少経路などを求め、パレート最適な領域を検討した結果、以下のことがわかった

・パレート最適経路はゾーン境界道路に集中すること

・パレート最適曲線は連続的とは限らないが、点と線で表現できること

・ゾーンの電柱密度差が小さくなるにつれて、パレート最適集合は縮小すること

→災害を意識した経路を考えれば、パレート最適が集中するゾーニングの境界付近を通る道路での無電柱化が効果的であるといえる

⇒例えば、無電柱化するとき、単に電柱が多い市街化区域全体を整備するのではなく、ゾーニングの境界部分での整備や、郊外から市街地をダイレクトに結ぶ道路での整備が効果的であると解釈できる

 

オフグリッド導入効果分析 1

●次に、オフグリッド導入の効果と適地について考えるため、電線まで含めた配電網を考えた

●この分析には、電柱どうしの接続を把握する必要があるが、そのようなデータが存在しないため、近接グラフを用いて電柱をノード、電線をエッジとした仮想配電網を構築した

●フィールド調査を行いつつ、現実の配電網を近似するグラフとして最小木(MST: Minimum Spanning Tree)を選定し、仮想配電網における電柱と近接する(50 m以内)建物数の関係をみた

●このとき、近接する建物棟数が少なく、かつ多くの電柱が使われている地域ほど、住民への影響が少なく、多くの電柱を削減する効果をもつことから、オフグリッド化する優先度が高いものとした

●農村地域、住宅地、市街地の例としてそれぞれ、つくば市上菅間・中菅間地区、つくば市桜地区、土浦市桜町地区を選び、分析を行った

→近接中心性(任意の距離圏内の他ノードとの距離の和が小さいほど高い値となる)の最も高い電柱を「中心電柱」と仮定し、グラフの末端ノードから中心電柱にむかって有向グラフを構成し、電柱本数と建物数の関係をプロットすると、下図(図6)のようになった

図6:実データを用いたオフグリッドの効果

●両者の関係がほぼ線形となる住宅地や市街地と異なり、農村地域では、建物数が少ない(=オフグリッドによる影響を受ける住民が少ない)ながらも、隣接する電柱本数が相対的に多い(=オフグリッドによる電柱削減効果が高い)電柱が、比較的よくみられることがわかった(たとえば、図6の赤丸で囲まれた箇所)

 

●地区ごとの建物数と電柱本数は、下表(表1)のようになっている

表1:各地域の建物数と電柱本数の関係

 

オフグリッド導入効果分析 2

●最後に、有効グラフの枝先に接続する”電柱が多く、かつ建物数が少ない”電柱ほど、オフグリッドの優先順位が高いものとして、筑波山から5 km圏内にある地域でのオフグリッドによる配電効率(配電網に残る建物数と電柱本数の比)の改善効果をみた(表2)

表2:シナリオ別のオフグリッドによる改善比

●たとえば、優先順位が上位1%の電柱をオフグリッドすることで、6%の改善効果が見込まれることがわかった

●オフグリッドによる改善効果が高い電柱は、特に森林、農地などに多いこともわかった(図7)

図7:オフグリッドの優先順位が高い電柱の分布

 

提言

●以上の分析から、次のことを提言した

無電柱化は、都市においては線引き付近や緊急輸送道路での整備が効果的である

山間地域や中山間地域で見られる森林や農用地でのオフグリッドが有効である

レファレンス

図のベース地図は ESRI ジャパン スターターパック 2018 を使用しています

毎日新聞 (2018) 台風21号 地鳴り、衝撃の嵐 電柱・木々、根こそぎ, 9月6日大阪朝刊.
国土交通省(2019)東日本大震災・阪神・淡路大震災時のライフラインへの被害状況,<https://www.mlit.go.jp/road/road/
traffic/chicyuka/chi_13_06.html>,2019年11月閲覧.
NPO法人電線のない街づくり支援ネットワーク(2018)見上げたい日本の空☆復旧のシナリオ無電柱化の時代へ,かもがわ出版.
東京電力,台風15号による東京電力パワーグリッド株式会社サービスエリア内の設備被害および停電状況について【9月10日午前10時00分現在】, <http://www.tepco.co.jp/press/release/2019/1517283_8709.html>, 2019年11月閲覧.
国立社会保障・人口問題研究所(2017)日本の将来推計人口(平成29年推計),<http://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2017/pp_zenkoku2017.asp>
国土交通省,無電柱化の推進 電柱本数の推移H28,<https://www.mlit.go.jp/road/road/traffic/chicyuka/chi_13_03.html>,2019年11月閲覧.
石田眞二,亀山修一,奈良照一,宮坂純平(2011),無電柱化整備に道路のシークエンス景観の効果計測に関する研究,土木学会論文集D1(景観・デザイン),67巻1号 p. 1-10.
厲 国権,角知憲,寺町賢一(1998)歩車混合細街路の交通容量と歩行安全に与える電柱の影響,都市計画論文集,33巻 p. 589-594.
朴 鏞元,張 喜淳,横田隆司(2017)無電柱化が地価に及ぼす影響の要因分析-韓国の江原道春川市孝子洞大成路一帯を対象として,都市計画論文集,52巻3号 p. 1212-1217.

 

この記事は,下記の論文を要約したものです

渡司悠人 (2020) 減災・オフグリッドの視点での無電柱化の効果―県南電柱位置データを用いて―, 2019年度筑波大学大学院博士課程システム情報工学研究科修士論文.

後記

●データ分析だけではなく,実際に現地に足を運び、分析結果を実感することを心がけました

●全国津々浦々どこに行っても街中に電柱があるので、この研究が頭から離れることはありませんでした