高大連携

脳の働く時間帯を考慮した時間割最適化

班員:日立北高等学校5班:青野 加奈恵、小原 瑞花、飛田 朝海  筑波大学TA:川瀬元暉、宮地優斗

1.はじめに

 「時間割」とは、学校において、クラス単位で設定される、授業を曜日と時間帯によって定まるコマに割り付けた表である。日立北高校5班のメンバーは、この時間割について問題意識を持っている。1つは、集中力がない時間帯に、集中力が必要な授業科目が設定されている点である。もう1つは、集中力が比較的ある時間帯に、集中力があまり必要のない授業科目が設定されている点である。これらの問題点より、今の自分たちのクラスの時間割は、学習効率が悪いのではないかと考えた。

 時間割は、多くの学校の場合、毎年、高校の先生方が様々な制約の下で詳細に作成している。メンバーが所属している日立北高校においては、先生へのヒアリングの結果、市販の時間割作成ソフトを補助的に活用していることが確認できた。

過去の高大連携プロジェクトにおいても、時間割最適化の研究は取り扱われている。一例として、授業間の教室移動など生徒にとって不快となる要素に基づく指数を指標とし、それを最小化させる時間割最適化のモデルが提案されている。

2.研究の目的

 本研究では、脳の働く時間帯を考慮して、集中力がある時間帯に集中力が必要となる授業を配置することで、学習効率が現状よりも向上する時間割を提案することを目的とし、パラメータの検討と数理最適化モデルの計算機実験を行う。具体的には、学習効率を複数の要素に分解し、各要素を構成するパラメータを検討する。それらを、学習効率を最大化することを目的とした数理最適化モデルに設定し、計算機実験を行い、最適化された時間割を作成する。そして、作成した学習効率が最大化された時間割と既存の時間割の学習効率と特徴を比較し、提案するモデルの評価・考察を行う。

3.モデル化とプログラムの説明

 本章では問題設定を述べた後、数理モデルについて解説し、最後にプログラムについて述べる。

 

3.1 問題設定

 本節では、以下のように学習効率スコアを定義し、次の諸条件の下、問題設定をした。

● 学習効率スコア

 学習効率スコアは、月曜日から金曜日までの全ての時限の集中力スコアと授業スコアの積の和によって計算する。

  1. 集中力スコア

 曜日・時限ごとに脳の働く効率を考慮したスコアを決め、曜日のスコアと時限のスコアの積で、集中力スコアを定義した。曜日・時限毎のスコアは高校生に調べてもらい、以下のように定めた。

表1:曜日別集中力スコア

曜日

曜日スコア

月曜

0.6

火曜

1

水曜

0.7

木曜

0.5

金曜

0.8

 

表2:時限別集中力スコア

時限

時限スコア

1限

0.7

2限

0.8

3限

1

4限

0.8

5限

0.5

6限

0.6

7限

0.7

 

  1. 授業スコア

 受験科目となる12教科の担当の先生に担当科目の予習、授業における聴講、授業における対話、復習の4つの項目に合計10点になるよう点数付けを行ってもらった。その結果が以下である。

表3:授業4項目点数

 

予習

授業:聴講

授業:対話

復習

数学

2

3

1

4

物理

5

1

3

1

生物

0

2

2

6

化学

1

3

3

3

地学基礎

0

2

2

6

現代文

2

4

2

2

古典

3

2

3

2

政治経済・現代社会

1

3

5

1

世界史・日本史

1

4

2

3

コミュニケーション英語

2

1

3

4

英語表現

2

3

3

2

 

 この結果をもとに、授業における聴講の重みの項目の数値を授業スコアとして定義した。物理と化学は1つの科目として時間割を決めるため、物理と化学の授業スコアの平均値を授業スコアとして用いている。また、体育、情報、保健、総合、LHRは受験科目として扱われないため、授業スコアを0と定義している。

表4:授業スコア

授業

授業スコア

数学

3

物理/生物

1.5

化学

3

地学基礎

2

現代文

4

古典

2

政治経済・現代社会

3

世界史・日本史

4

コミュニケーション英語

1

英語表現

3

 

● 諸条件

 日立北高校2年生の6クラスの時間割を対象とした。各教科の週当たりの実施回数は現在の時間割と同様になるよう設定し、時間割のルールは先生に聞き取り調査を行った。

 各教科の週当たりの実施回数は以下の通りである。

表5:授業別週あたりコマ数

週当たりの実施回数

理系

文系

数学

6

5

物理/生物

5

0

化学

2

0

地学基礎

0

2

現代文

2

3

古典

2

3

政治経済

2

0

現代社会

0

1

世界史・日本史

0

3

コミュニケーション英語

4

4

英語表現

2

3

体育

3

3

情報

2

2

保険

1

1

総合

1

1

LHR

1

1

音楽・美術

0

1

 

 聞き取り調査を行った結果、時間割のルールは以下の6つであった。

  • 月曜日と金曜日は7限に授業を実施しない
  • 水曜6限は総合、水曜7限はLHRを実施
  • 体育は1限と最終時限に実施しない
  • 体育は理系・文系各1クラス合同で実施
  • 理系の数学以外の科目の実施回数は1日1回まで
  • 理系の数学は1日だけ2回連続で実施
  • 情報と体育は教室移動があるため連続しない

 

● 問題設定

 各教科の週当たりの実施回数、時間割のルールを守りつつ、日立北高校2年生の6クラスの学習効率スコアの最小値が最大となるように、2年生6クラスの時間割を決定する。

 

3.2 数理モデル

 前節3.1の問題設定を次のように数理モデル化した。

  • 集合

 ・𝐻:クラスの集合{1,2,3,4,5,6}(1、2、3が理系、4、5、6が文系)

 ・𝐼:曜日の集合{月,火,水,木,金}

 ・𝐽:時限の集合{1,2,3,4,5,6,7}

 ・𝐾:科目の集合(数学など 17 科目)

  • 定数

 ・𝑎𝑗:𝑖時限のスコア

 ・𝑏𝑘:科目𝑘の授業スコア

 ・𝑐ℎ,𝑘:クラスℎ(理系・文系)の科目𝑘の週当たりの実施回数

 ・𝑑𝑖:𝑖曜日のスコア

 ・𝑒𝑘:科目𝑘の先生の数

  • 変数

 ・𝑥ℎ,𝑖,𝑗,𝑘 ∈ {0,1}, (𝑖 ∈ 𝐼, 𝑗 ∈ 𝐽, 𝑘 ∈ 𝐾):クラスℎで科目𝑘を𝑖曜日𝑗時限に実施するなら 1、そうでないなら 0 をとる変数

  • 制約

 ・各教科は週に決められた数だけ授業を実施する

  ∑𝑖∈𝐼𝑗∈𝐽 𝑥ℎ,𝑖,𝑗,𝑘 = 𝑐ℎ,𝑘

 ・各曜日各時限に行われる科目は 1 科目

  ∑ 𝑥ℎ,𝑖,𝑗,𝑘 = 1, (∀ℎ ∈ 𝐻, ∀𝑖 ∈ 𝐼, ∀𝑗 ∈ {1,2,3,4,5,6})

 ・月曜と金曜は 7 限どの授業も実施しない

  ∑𝑘∈𝐾 𝑥ℎ,𝑖,7,𝑘 = 0, (∀ℎ ∈ 𝐻, ∀𝑖 ∈ {月, 金})

 ・火曜、水曜、木曜は 7 限に1科目実施する

  ∑𝑘∈𝐾 𝑥ℎ,𝑖,7,𝑘 = 1, (∀ℎ ∈ 𝐻, ∀𝑖 ∈ {火,水,木 })

 ・水曜 6 限は総合、水曜 7 限は LHR を実施する

  𝑥ℎ,,6,総合 = 1, 𝑥ℎ,,7,LHR = 1, (∀ℎ ∈ 𝐻)

 ・体育は 1 限と最終時限に実施しない

  𝑥ℎ,𝑖,𝑗,体育 = 0, (∀ℎ ∈ 𝐻, ∀𝑖 ∈ {月, 金} , ∀𝑗 ∈ {1,6})

  𝑥ℎ,𝑖,𝑗,体育 = 0, (∀ℎ ∈ 𝐻, ∀𝑖 ∈ {火, 水, 木} , ∀𝑗 ∈ {1,7})

 ・体育は理系・文系各 1 クラス合同で実施する

  𝑥ℎ,𝑖,𝑗,体育 = 𝑥ℎ+3,𝑖,𝑗,体育, (∀ℎ ∈ {1,2,3}, ∀𝑖 ∈ 𝐼, ∀𝑗 ∈ 𝐽)

 ・理系クラスは数学以外の科目について 1 日の実施回数が 1 回まで

  ∑𝑗∈𝐽 𝑥ℎ,𝑖,𝑗,𝑘 ≤ 1, (∀ℎ ∈ {1,2,3}, ∀𝑖 ∈ 𝐼, ∀𝑘 ∈ 𝐾 ∕ {数学})

 ・理系クラスは数学を毎日実施し、1 日だけ 2 回実施する

  ∑𝑥ℎ,𝑖,𝑗,数学 ≥ 1, (∀ℎ ∈ {1,2,3}, ∀𝑖 ∈ 𝐼)

 ・理系クラスで 1 日に数学を 2 回実施する場合、連続して行う

  𝑥ℎ,𝑖,𝑗,数学 + 𝑥ℎ,𝑖,𝑗+2,数学 ≤ 1, (∀ℎ ∈ {1,2,3}, ∀𝑖 ∈ 𝐼, ∀𝑗 ∈ {1,2,3,4,5})

 ・文系クラスは全ての科目について 1 日の実施回数が 1 回まで

  ∑𝑗∈𝐽 𝑥ℎ,𝑖,𝑗,𝑘 ≤ 1, (∀ℎ ∈ {4,5,6}, ∀𝑖 ∈ 𝐼, ∀𝑘 ∈ 𝐾)

 ・情報と体育は教室移動があるため連続で実施しない

  𝑥ℎ,𝑖,𝑗,情報 + 𝑥ℎ,𝑖,𝑗+1,体育 ≤ 1, (∀ℎ ∈ 𝐻, ∀𝑖 ∈ 𝐼, ∀𝑗 ∈ {1,2,3,4,5,6})

  𝑥ℎ,𝑖,𝑗,体育 + 𝑥ℎ,𝑖,𝑗+1,情報 ≤ 1, (∀ℎ ∈ 𝐻, ∀𝑖 ∈ 𝐼, ∀𝑗 ∈ {1,2,3,4,5,6})

  • 目的関数(最大化)

 ・日立北高校 2 年生の全 6 クラスの学習効率スコアの最小値

  min (∑𝑖∈𝐼𝑗∈𝐽𝑘∈𝐾𝑎𝑗𝑏𝑘𝑑𝑖𝑥ℎ,𝑖,𝑗,𝑘) , ℎ ∈ 𝐻

 

3.3 プログラムとプログラムの実行

 前節3.2の数理モデルを数理最適化ソルバーFICO Xpress Optimizationで実装すると次のようになる。

4.データについて

 本章では入力データと出力データの仕様について述べる。

4.1 入力データについて

 本節では入力データについて述べる。入力データは以下の5つである。

  1. 𝑎𝑗:𝑖時限のスコア
  2. 𝑏𝑘:科目𝑘の授業スコア
  3. 𝑐ℎ,𝑘:クラスℎ(理系・文系)の科目𝑘の週当たりの実施回数
  4. 𝑑𝑖:𝑖曜日のスコア
  5. 𝑒𝑘:科目𝑘の先生の数

は月、火、水、木、金の順にスコアを入力し、は1、2、3、4、5、6、7限の順にスコアを入力する。𝑏𝑘、𝑒𝑘については、数学、物理/生物、コミュニケーション英語、体育、情報、英語表現、政治経済、科学、現代文、古典、保健、総合、LHR、世界史、地学基礎、現代社会、音楽美術の順にそれぞれ授業スコア、先生の数を入力する。𝑐ℎ,𝑘は科目の順番は𝑏𝑘、𝑐𝑘と同様で、1行目に理系の週当たりの各科目の実施回数、2行目に文系の週当たりの各科目の実施回数を入力する。

 

4.2 出力データについて

 本節では出力データについて述べる。出力データは以下の3つである。

  1. 6クラスの最小学習効率スコア
  2. 各クラスの時間割
  3. 各クラスの学習効率スコア

3.3節のコードを実行した結果が以下のようになる。

<出力データ>

37.295

1クラス:理系37.295

物/生 政経       物/生     情報       物/生    

古典   英表       化学       物/生     数学      

数学   現代文   現代文   数学       政経      

体育   化学       数学       古典       英表      

c英    物/生     c英        保健       体育      

情報   数学       総合       体育       c英       

          数学       LHR      c英                     

2クラス:理系37.3

情報   化学       物/生     物/生     数学      

物/生 数学       政経       古典       数学      

数学   現代文   数学       数学       現代文  

古典   政経       化学       体育       英表      

体育   体育       c英        保健       c英       

c英    物/生     総合       情報       物/生    

          英表       LHR      c英                     

3クラス:理系37.3

物/生 数学       c英        c英        化学      

体育   数学       英表       古典       数学      

数学   政経       数学       数学       現代文  

古典   現代文   物/生     物/生     政経      

情報   物/生     体育       体育       c英       

c英    英表       総合       保健       物/生    

          化学       LHR      情報                    

4クラス:文系37.51

現代文現社      世界史   古典       英表      

地基   現代文   現代文   数学       情報      

古典   英表       古典       英表       世界史  

体育   世界史   数学       音美       c英       

c英    数学       地基       保健       体育      

数学   c英        総合       体育       数学      

          情報       LHR      c英                     

5クラス:文系38.43

c英    c英        英表       地基       数学      

地基   現代文   数学       保健       世界史  

古典   英表       世界史   現社       c英       

現代文世界史   古典       体育       英表      

体育   体育       情報       c英        音美      

数学   古典       総合       情報       現代文  

          数学       LHR      数学                    

6クラス:文系37.38

世界史古典      英表       古典       情報      

体育   世界史   数学       保健       数学      

c英    数学       c英        c英        世界史  

地基   現代文   現代文   現代文   c英       

情報   音美       体育       体育       古典      

数学   現社       総合       英表       地基      

   英表       LHR      数学                    

 

最初に表示されている数値が6クラスの最小学習効率スコアで、その後に1クラスから順に学習効率スコアと時間割が出力される。

5.計算機実験の結果と考察

 本章では現状の時間割の学習効率スコアの計算結果、およびに検討したパラメータに基づく時間割最適化の結果を述べ、考察する。

 

まず、今回の学習効率スコアの定義および設定パラメータに基づき算出した、日立北高校2学年の各クラスの時間割の学習効率スコアの結果については以下の表のとおりである。

表6:現状の時間割の学習効率スコア

クラス

文理

学習効率スコア

2年1組

理系

31.70

2年2組

理系

30.12

2年3組

理系

30.88

2年4組

文系

32.58

2年5組

文系

34.59

2年6組

文系

35.97

 

次に、4章で示したデータに基づき、計算機実験の結果算出された各クラスの学習効率スコアは以下の表のとおりである。学習効率スコアは小数点第3位を四捨五入して表示している。

表7:現状の時間割の学習効率スコア

クラス

文理

学習効率スコア

2年1組

理系

37.30

2年2組

理系

37.30

2年3組

理系

37.30

2年4組

文系

37.51

2年5組

文系

38.43

2年6組

文系

37.38

 

 そして、下記の図は、日立北高校5班のメンバーが所属する、2年3組の現状の時間割と最適化後の時間割である。

図1;現状の時間割と最適化後の時間割

 

5.1 現状の時間割の学習効率スコアの考察

 表6から、現状の時間割において、理系クラスが文系クラスよりも学習効率スコアが総じて低いことがわかった。表4および表5から理系・文系各クラスで実施される各授業の授業スコアを確認すると、例えば、世界史・日本史は4、物理・生物が1.5である。これらの授業について表3を確認すると、世界史・日本史は、「授業:聴講」が最も点数が高く、物理は「予習」、生物は「復習」が最も点数が高い。よって、理系・文系それぞれのクラスにおいて、必修となる授業の授業スコアに差があることが、現状の時間割において理系クラスが文系クラスよりも学習効率スコアが低い要因のひとつであると考える。

 

5.2 最適化後の時間割と現状の時間割の学習効率スコアの比較と考察

 表6と表7を比較すると、全てのクラスにおいて、最適化により学習効率スコアが向上していることがわかる。

 図1より、例えば、現状の時間割では、1週間の中で曜日スコアおよび時限スコアが比較的高い火曜日3限のコマに「体育」が配置されているが、最適化後の時間割では、同様のコマに「体育」よりも授業スコアが高い「政治経済」が配置されている。これは、本モデルの制約を満たす中で、学習効率が高いコマに、集中力が必要、すなわち授業スコアが高い授業が配置できたことを示している。

 また、現状の時間割よりも最適化後の時間割の方が、理系クラスと文系クラスの間で、学習効率スコアの差が小さくなったことが確認できた。

6.おわりに

 本研究では、脳の働く時間帯を考慮して、集中力がある時間帯に集中力が必要となる授業を配置することで、学習効率が現状よりも向上する時間割を提案することを目的とし、パラメータの検討と数理最適化モデルの計算機実験を行った。

主な結果は以下の通りである。

・現状の時間割では理系クラスよりも文系クラスの学習効率スコアの方が平均的に高いことが分かった

・最適化後は現状の時間割よりもどのクラスも学習効率スコアが向上した

・最適化後の時間割では理系・文系クラス間の学習効率スコアの差が小さくなっ 本研究において提案したモデルは、今回検討したパラメータを前提としたときに、現状の時間割から脳の働く時間帯を考慮し、より学習効率の高い時間割を作成できることが確認できた。

今後の課題として大きく以下の二つが挙げられる。

・学習効率スコアの各パラメータの精緻化

  ①曜日スコア・時限スコアについて、IoTデバイスなどを活用し、集中力を実際に計測することで、実態に沿った集中力のある時間帯に基づいたパラメータを設定すること

  ②授業スコアについて、生徒からの授業に関するフィードバックを反映することで、実態に沿ったパラメータを設定すること

・制約条件の精緻化

  ①土曜日授業を考慮した制約を追加すること