High School and University Cooperation

池袋駅混雑解消のための影響人数シミュレーションと予算の試算

班員:豊島岡女子学園1班:上條悠里  筑波大学TA:岩永二郎

1.はじめに

 日本では都市の発展とともに通勤時の大規模な人員輸送が要求され、鉄道網の複雑化と運行スケジュールの過密化により対応してきた。しかし、すでに鉄道の輸送容量を越えており、ホームでの安全上の問題など駅混雑の問題が顕在化している。本研究ではプロジェクトメンバーである上條悠里が通学する豊島岡女子学園高等学校の最寄り駅である池袋駅を対象とする。

 池袋駅の混雑は国内でもトップクラスであり、1日の駅乗降人員数は約210万人と言われている。表1は主要鉄道会社の1日の乗降人員数と順位である。

表1 主要鉄道会社の1日の乗降人員数と順位


参考URL「https://www.seiburailway.jp/railway/eigyo/transfer/2019joukou.pdf」

 表からわかるように主要鉄道会社4社のうち3社で駅の乗降人員数が1位となっており、池袋駅がいかに混雑しているかが確認できる。このように池袋駅の混雑は国内でも群を抜いており、通勤時の心地よい乗車体験を担保するだけでなく、昨今のコロナウィルス感染予防も観点においても池袋駅の混雑解消は一刻も早く解決すべき社会問題である。

 駅混雑解消の代表的な取り組みは2つある。1つ目は時間帯によって運賃に差を設ける「時間帯別運賃」の仕組みである。この取り組みは一般的に切符利用者のみが対象となっており、交通系ICカードの利用が定着している国内では現実的ではない。2つ目は東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)が2020年11月10日に発表した「時差通勤でポイント還元」の仕組みである。この仕組みはSuica定期券の利用者を対象に混雑時間帯を避けて時差通勤するとポイントが付与される仕組みである。この取り組みはSuica定期券利用者に限定しているためそもそも駅混雑解消に必要な人数が確保できていない可能性があるとともに、ポイント付与の制御ができないため予算管理が困難である問題がある。

2.研究の目的

 本研究では池袋駅の混雑解消を目的として駅混雑解消の仕組みを提案し、影響人数と予算のシミュレーションを行なう。具体的には交通系ICカードにポイントを付与する仕組みを構築し、数理最適化モデルを利用して駅混雑解消をシミュレーションすることにより影響人数を推定する。さらに影響人数に応じて必要となるポイントを試算し、どの程度の予算が必要か議論する。

 提案手法は、駅利用者が改札を通過する際に、ピーク時を避けて駅利用するとポイント付与することを個別に通知するものである。図1は提案手法の仕組みのイメージ図である。

図1 提案手法の仕組み

 提案手法は1章で紹介したJR東日本の取り組みと類似している。JR東日本の取り組みは11月10日に発表された一方で、本取り組みは11月20日の高大連携シンポジウムで発表されており、同時期に進めていたプロジェクトであることに注意されたい。なお、本取り組みとJR東日本の取り組みの差分は主に3つある。1つ目は交通ICカード利用者全体を想定していること、2つ目は駅利用者個別にポイント付与の通知が行えること、3つ目は個別にポイント通知を行えるためポイント付与(予算)の制御が可能なことである。

3.モデル化とプログラムの説明

 本章では問題設定を述べた後、数理モデルについて解説し、最後にプログラムについて述べる。

 

3.1 問題設定

 本節では池袋駅の混雑解消をするために、次の諸条件のもとで問題設定をした。

 ● 諸条件

   ・駅利用者全体を対象とする

  ・駅利用の時間帯は15分粒度とし1日80時間帯を対象とする。

  ・駅利用者は通常の通勤パターンと、前後15分ずらすパターンをもつ。

 ● 問題設定

  ・混雑時間帯の混雑率a%を解消するために、各時間帯の駅利用時間の駅利用者の駅利用時間を①そのままか、②早めるか、③遅らせるかを決定する。

  ・影響(駅利用時間をずらす)人数を最小化する

 

3.2.数理モデル

 前節3.1.の問題設定を次のように数理モデル化した。

 なお、前節3.1.で混雑率a%を解消するとした場合、混雑時間帯の駅利用人数を予め算出しておき、混雑率a%を用いて書く時間帯の駅利用者の最大数mを算出した。

 

3.3 プログラムとプログラムの実行

 前節3.2の数理モデルを実装すると次のようになる。

 

model peak
       uses “mmxprs”

declarations
       U : set of string
       P : set of integer
       H : set of integer
       a : array(U,P,H) of integer
       m : integer
       x : array(U,P) of mpvar
end-declarations
initializations from “input.dat”
  U P H a m
end-initializations

forall(u in U,p in P) do
  create(x(u,p))
  x(u,p) is_binary
end-do

forall(u in U) sum(p in P)x(u,p)=1
forall(h in H)sum(u in U,p in P)a(u,p,h)*x(u,p)<=m

obj := sum(p in P,u in U | p>1)x(u,p)

minimize(obj)

writeln(“U=”,U)
writeln(“P=”,P)
writeln(“H=”,H)
writeln(“a=”,a)
writeln(“m=”,m)
writeln(“obj”,getobjval)
forall(u in U,p in P |getsol(x(u,p))>0) do
writeln(u,”-“,p)
end-do

fopen(“output.txt”,F_OUTPUT)
forall(u in U,p in P | getsol(x(u,p))>0) do
writeln(u,”-“,p)
end-do
fclose(F_OUTPUT)

end-model

 

 本プログラムは数理最適化ソルバーFICO Xpress Optimizationを用いた。実行ファイルを「peak2.mos」、入力データを「input.dat」として、コマンドラインまたはGUIから実行することができる。プログラムを実行すると出力データとして「output.txt」が出力される。

4.データについて

 本章では入力データと出力データの仕様について述べる。

 

4.1 入力データについて

本節ではinput.datの仕様について述べる。

  • U:利用者ID
  • P:パターンID
    (本問題設定ではパターンIDを1、2、3とし、パターン1を通常のパターンとする)
  • H:時間帯ID
    (本問題設定では時間帯のIDを1、2、・・・、80とする)
  • a:パターン
    各駅利用者がもつパターンを、利用者ID、パターンID、時間帯IDの組みに対して1を割り当てるようにして記述する。

 

input.datは具体的には次のようなファイルとなる。ただし、時間帯IDについては簡単のため1、2、3のみとした。

 

U : [“kamijo” “ito” “miura”]

P : [1 2 3]

H : [1 2 3]

a : [
    (“kamijo” 1 2) 1
    (“kamijo” 2 1) 1
    (“kamijo” 3 3) 1
    (“ito” 1 2) 1
    (“ito” 2 1) 1
    (“ito” 3 3) 1
    (“miura” 1 2) 1
    (“miura” 2 1) 1
    (“miura” 3 3) 1
]

m : 1

 

4.2 出力データについて

本節ではoutput.txtの仕様について述べる。output.txtは’-’区切りとしたCSV形式のファイルであり、次の2つのカラムを持つ。

  • U:利用者ID
  • P:選択するパターンID

output.txtは具体的には次のようなファイルとなる。

 

kamijo-2
ito-1
miura-3

 

5.計算機実験の結果と考察

 本章では駅混雑をするための影響人数のシミュレーション結果、および必要な予算の試算結果について述べ、それぞれ考察を与える。

 

5.1 駅混雑解消のための影響人数のシミュレーション結果と考察

 本節では駅混雑解消率を変化させた場合に、駅混雑解消に影響を与える人数についてシミュレーションした結果と考察を行なう。図2は混雑解消率を変化させた場合の影響人数についてのグラフである。図より駅混雑解消率を上げるほど影響人数が線形以上のオーダーで増加することがわかる。

 

図2 混雑解消率と移動人数

 

 影響人数が線形以上のオーダーで増える現象についてより深く解析を行った。図3は通常ケース、混雑解消率12%、24%の混雑解消の様子を表した図である。混雑率を高くするほど、玉突きで駅利用時間をずらす必要があることがわかる。 

図3 通常ケース、混雑解消率12%、24%の混雑解消の様子
オレンジ色:利用時間を早める駅利用者
赤色:利用時間を遅くする駅利用者

 

以上のシミュレーションより、混雑を解消するほど、玉突きで駅利用時間をずらす必要があり、影響する駅利用者数が二次関数的に増加すると考察できる。

 

5.2 必要な予算の試算と考察

 本節では駅混雑解消率を変化させた場合に、必要になる1年間のポイント付与量について試算した結果と考察を行なう。図4は1回混雑時間帯をずらして通勤した際に付与されるポイント付与量と必要になる年間ポイント付与量についてのグラフであり、混雑解消率ごとに直線が引かれている。ECサイトにおいて1ポイントで1円の買い物をすることができるため、数千万円から数億円のポイント(予算)が必要であることがわかる。また、前節5.1.の結果を踏まえると混雑解消率が高くなると急激に必要な予算が増えることもわかる。

図4:1回のポイント付与量と年間で必要になるポイント付与量

図4の結果を踏まえて、表2は図4の中から現実的な予算である4つの点を抽出した。

表2 混雑解消率8%・16%とポイント付与10・20の比較

 表からわかるように混雑率8%解消するために10ポイントを付与すると年間3千万ポイントが必要となる。また、混雑率8%から16%解消に引き上げると必要なポイント付与量は約5倍に増加することがわかる。

6.おわりに

 本研究では池袋駅の混雑解消を目的として駅混雑解消の仕組みを提案し、影響人数と予算のシミュレーションを行なった。具体的には交通系ICカードにポイントを付与する仕組みを提案し、数理最適化モデルを利用して駅混雑解消をシミュレーションすることにより影響人数を推定した。また、影響人数に応じて必要となるポイントを試算し、どの程度の予算が必要か議論した。

 本研究の主要な結果と考察は次の通りである。

  • 駅の混雑を解消するほど、玉突きで駅利用時間をずらす必要があり、影響する駅利用者数が二次関数的に増加する。
  • 1年間に必要なポイント量を試算すると、混雑率8%解消のために10ポイントを付与すると年間3,000万ポイントが必要となる。
  • 混雑率16%解消に引き上げると必要なポイント量は約5倍になり、1.6億ポイントが必要となる。 

 本研究は、2020年7月から開始していたが、2020年11月10日のプレスリリースにてJR東日本から同様の取り組みをしていることが判明した。同様の取り組みを先に発表されてしまったことに対して惜しい気持ちがあったが、本取り組みがビジネス的に有効で現実的であることの裏づけであるとも言える。今後の課題としてJR東日本の取り組みとの差別化をはかり、本提案の独自性を深めていきたい。